笑う時の日記

生かされも殺されもする。それが笑い。その魅力が伝われば。

規格外のガキ大将とその名脇役たちによる大きな行動~『我が愛と青春のたけし軍団』

我が愛と青春のたけし軍団

我が愛と青春のたけし軍団

ガダルカナル・タカたけし軍団の結成から今に至るまでのエピソードと、軍団の他メンバーに行ったインタビューをまとめた本。たけし軍団といえば様々な身体を張った芸で伝説を残し師匠(殿)のビートたけしに絶対服従の怖い集団というイメージがあるが、この本ではよりそのイメージの拡大と意外なギャップを知ることが出来た。

こんな事を自分みたいな若造が書いたら軍団の人やたけしを愛する人たちに怒られそうだけど、ビートたけし北野武)という人物は意外と努力家なんじゃないかという印象を持った。それは彼が全く寝ないというエピソードに付随して、彼が本を「難しい本からエロ本まで」絶対にあいている時間に何冊も読んでいるという事であったりだとか、番組や映画の打ち合わせやアイデアを自分が忘れてあとで思い出すほど沢山出すという話の記述を目にしたからだ。普通、他人がやったら努力・忍耐になるような作業を彼は寝る間も惜しんで(どちらかと言うと、そのまま元気に起きたまま)、やる彼に意外な一面を見た気がした。

勿論、期待通り馬鹿話は沢山。とにかく思うのは軍団の皆さんは今回した監修のタカ(水道橋博士も入るかな?)以外、素直で天然な悪ガキだという事。(そういう人間が多く集まったのは、たけしが唯一直接クビを宣告した話を読めば何となく分かる。)今やお笑いの学校の普及で数少ない箔がつく師弟関係と俗っぽいお笑いの伝承のようにたけし軍団はなっているけど、「そもそもちゃんと師弟関係を組んだっけ?」と振り返ったり、軍団の初期メンバーは年の差や芸歴は少しあったけどみんなゆるくまとまっていたなど、今のお笑い日常感・普通の人感(元々そういう先駆けっていう批評も出来るけど)を出してるなあと思った。そもそもたけしはインタビューで「勉強ばっかりしてたから幼少時の取り返しでガキ大将になりたかったから軍団をつくったのかも」と述べてるとおり、旧来の師弟関係の否定だけじゃなかったのかもしれない。

それでも芸名の付け方や、番組の企画はやっぱり今のテレビじゃ出来ないとんでもないものばかり。フライデー事件の話なんか、軍団のそれぞれの個性がより際立ってて笑える。だけども不謹慎なのがカラッと笑えるのは、やはり軍団の芸人としての覚悟と性格の良さが出ているからだろう。多分、編集や演出の問題なんだろうけどダウンタウンやとんねるずはやってることは軍団より過酷じゃないのに、観てて良い気持ちがしない企画があるように自分は感じる。ちゃんとしたフィクションとして届けるお笑いが本当に無くなった。だから微妙に真似されて問題になることは否めない。芸人側に全責任を押し付けるのは絶対間違っていると考えるが。その事を危惧してたけしがおっかけの女の子に話しかけて、のちにとても素敵な話になるのは泣けるので読んで確かめて欲しい。

なべやかんがこの本のインタビューでたけしの多彩さとバイタリティを死刑執行前に沢山の事をする死刑囚みたいだと述べていたが、実際に一歩間違えてたら野垂死にしていたり人を殺してもおかしくない人たちが集まって、大勢の国民を笑わしたのは不思議だ。たけしという死刑囚でガキ大将の殿が、弟子でもあり名脇役でもあり息子でもある軍団と組んで送り届けてきた映画や笑いは、償いでもあり希望でもあるのだ。
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